【二人だけの戦場】このタイミングしかなかった独立宣言と誤算
宝塚歌劇花組公演の「二人だけの戦場」を観劇してきました。架空の国が舞台になるとどうしてもいろいろと考えてしまう癖があります。
なお、この記事には多くのネタバレがありますので、純粋にストーリーを楽しみたい方は観劇後に読むことをお勧めします。
またこの記事での主人公はシュトロゼック(ヒロイン・ライラの父でルコスタ自治州議会議長)であり、あくまで観劇した際に得た情報のみで構成されています。
ルコスタ自治州とは
ヨーロッパのとある連邦国家の中の自治州のひとつ。連邦政府から遠い辺境にあり、連邦樹立当時から反政府の立場。そして独立の気運が高まっている。
ロマという少数民族の故郷の地であり、かつての恋人たちの悲劇をもとにした祭りが年に1度開催される。この祭りはロマにとって最も大切なイベントであるが、数年前までは連邦政府によって開催を禁じられていた。
州議会が設置されているが議長のシュトロゼック以外の議員は登場しないので、構成は不明。過激派が多かったが徐々に変わりつつあるという。
それでもなお、過激派によるテロ活動が相次いでいる。
連邦軍のクロイツェル基地には約800名が駐屯しているが、現地で招集した兵もいる。司令官はハウザー大佐。
したたかな議長・シュトロゼック
物語を通して見ていくと、議長・シュトロゼックのしたたかな内政と外交が見えてくる。彼自身が本当の心情を語ることはないため、行動で想像するしかない。
まずシュトロゼック自身は独立派であるが、武力をもって独立を目指してはいない。このため、テロ組織を説得させるために息子・アルヴァを出向かせている。また独立のために周辺国に対して、周到な根回しを行っている。
アルヴァは説得に失敗し命を狙われることになったが、シュトロゼック自身が狙われたような描写はない。このことから、シュトロゼックが独立派であり、周到な根回しを行っていることはロマでは周知の事実であった。
しかしながら連邦軍のハウザー大佐とは親しく友情を結ぶ中で、平和裏に連邦に帰順するように見せかけ信頼もされていた。
テロの激化は催促では?
シュトロゼックにとっての誤算は、過激派のテロ活動激化だっただろう。劇中では少なくとも2度、テロ事件が起こっている。1度目はシンクレアとクリフォードの着任直後。2度目は年に一度の祭りの最中である。
1度目のテロ事件のあと、ハウザー大佐と面会したシュトロゼックはイライラした様子だった。テロ事件はいまだ独立に動かないシュトロゼックへの催促だった。しかしながらおそらくこの時点では、まだ周辺国への根回しが完全なものではなかったのだろう。
テロ事件に対して、ハウザー大佐はシュトロゼックに対して最後通告に近い要請を行っている。「これ以上テロが起こると軍として動かなければならない」。シュトロゼックは板挟みになってしまい、かなり焦ったはずだ。
過激派もしたたかだ。2度目のテロ事件は直接基地に対するものだった。しかも年に一度の祭りの日である。平和裏に帰順させたいハウザー大佐が手を出しにくい日を選んだのだろう。万が一、祭りの日に軍を動かし市民を危険にさらしたとなると決裂は決定的になる。しかし連邦軍もテロ事件による死者が5人になったことで、行動を起こさざるを得なくなってきていた。
シュトロゼックにとって、独立宣言はもはやこのタイミングしかなかった。
連邦軍は2度目のテロ事件直後に動くべきだった
連邦政府はルコスタが独立すると、多少なりとも不満を持つ自治州への悪しき前例をなってしまうことを恐れていた。ここで絶対に独立宣言をさせてはならず、本来であれば劇中2度目のテロ事件直後に武力による制圧に踏み切るべきだった。ルコスタ自体はハウザー大佐の英断により戦火を免れた。しかしその後、他の自治州の独立を封じるために、なんと5年間も内戦が続くことになってしまった。
確かに2度目のテロ直後に動いていれば、ロマと連邦は埋められない溝ができてしまっただろう。しかしその後の内戦を考えると、やはりロマを叩き、独立宣言をさせてはいけなかったのだ。
ただここで連邦(ハウザー大佐)の判断を鈍らせたのは、やはりシュトロゼックの存在だった。ハウザー大佐は独立宣言直前まで、シュトロゼックは連邦に帰順すると考えており、独立するとは一切考えていなかった。
勝ったのはシュトロゼック
独立宣言後、シュトロゼックの思惑通り、周辺国がルコスタの独立を認めた。これにより連邦軍はルコスタを攻撃すると侵略行為となってしまうため攻撃ができない。クロイツェル基地からの攻撃も同様である。あとは連邦政府が、ハウザー大佐にクロイツェル基地からの撤退を命令すれば無血開城である。
しかしシュトロゼックの誤算がここでも起こる。連邦政府はルコスタが無線を切ったことにして、クロイツェル基地から撤退させないことにしたのである。クロイツェル基地内ではハウザー大佐の方針に従わない強硬派がおり、突如回復した無線によりルコスタ攻撃命令が出ると言う。これが強硬派によるハウザー大佐を追い落とすための方便だったかどうかはわからない。ただこのとき基地内でも大きな混乱が起ころうとしていた。
結局、シュトロゼックと親交があったシンクレアのとっさの行動で強硬派は頭を失い、ハウザー大佐は撤退。連邦軍はルコスタに攻撃されるクロイツェル基地救出、という口実を失い独立を認めることとなった。ルコスタは15年ほどあとに国交を回復。結果的に戦火にさらされず独立に成功したルコスタとシュトロゼックが勝者となったのだ。
終わりに
舞台の感想を少しだけ。今回はショーはなく、舞台転換もほとんどない演目でした。大がかりな舞台転換が魅力のひとつでもある宝塚歌劇で、舞台転換が少ないのは、それだけ内容に自信があるからだと勝手に考えています。今回も推しの成長が感じられたので大満足です。