移動距離2000キロ超?天下を求めてさまよう旅が始まる 三国志演義第1話
三国志演義第一話の最大の見どころは、もちろん「桃園の誓い」でしょう。ファンであれば誰もが知っていることでしょうから、ここでは様々な疑問点とともに、さまよえる劉備らがここかは始まっていることを見ていきましょう。
第一話の流れ
後漢末期は幼い皇帝の擁立が続き、外戚(皇帝の母の親戚)や宦官(去勢された男性で皇帝の奥向きのお世話係)が政治に口を出すようになり、政治腐敗が進んでいく。そんな中、黄巾の乱が起こり天下は大混乱に陥る。張角をリーダーとする一連の反乱は、一種の宗教的なものと思われがちですが、実はそうでもなく社会に根深いものでした。
黄巾の乱に対して各地では義勇軍の募集が始まります。そこで立ち上がったのが劉備、関羽、張飛の3人。劉備らは義兄弟となり華々しいデビューを飾り各地を転戦。最後に張角に敗れた董卓を救いますが…。
主な人物
- 劉備
本作の主人公。皇室の血を引いているものの、極貧の生活を送っているところに黄巾の乱が起こる。張飛らの助けもあり、旗揚げ後は華々しいデビューを飾る。青州の包囲を解いたあとは張角、張梁、張宝らとも対峙する。
正史での劉備は貧しくはあるが、そこまで落ちぶれている印象はなく、若者を集めて馬を駆ったりバクチ好きとまで書かれている。盧植に師事しているが鄭玄には師事していない。
- 関羽
劉備と張飛が旗揚げの相談をしているところに居合わせ意気投合する。もとの字を長生といい、地元で腐敗した役人を殺してきた。長大な青龍偃月刀で黄巾賊を蹴散らす。
演義が書かれた時代にはすでに神として祀られていたため、演義中では関公と表記される。
- 張飛
義勇軍募集の立て札の前で劉備と出会う。その後関羽とも意気投合し義兄弟となる。誓いを立てた桃園は張飛の屋敷の裏。何も持たない劉備への最初の出資者となる。蛇矛で黄巾賊を打ち破る。第一話からこれでもかというぐらい粗暴な性格がクローズアップされる。
- 劉焉
幽州の太守(実際には刺史の誤り)。黄巾の乱が起こると義勇軍の募集で劉備と出会う。同じ皇室の出ということもあり、義理の甥という破格の待遇をする。演義での出番はここまで。
正史では幽州刺史に就いたという記述はない。黄巾の乱が起こった頃には中央政府に絶望していたようで、自身が政府に提案していた、刺史に軍事権を与えた州牧に就き益州へ向かった。その後は半ば独立しつつ益州で過ごす。
- 鄒靖
劉焉の配下。涿郡から劉備に同行する。劉備らが広宗に向かう途中で幽州に帰った。
- 龔景
青州の太守(刺史の誤り)。城が黄巾賊に包囲されていたが、劉備らの活躍で黄巾賊を追い散らす。
- 盧植
黄巾賊のリーダー・張角と対峙する中郎将。張角の妖術に苦戦しているところに現れた宦官の使者に賄賂を渡さなかったことから逮捕される。
劉備の師であり、鄭玄とは同窓。このことからか、劉備が盧植と鄭玄に師事したことになっている。後漢末では有名な学者でもあった。
- 朱儁
黄巾賊の幹部・張梁、張宝と対峙する中郎将。皇甫嵩、曹操と黄巾賊を破る。
- 皇甫嵩
黄巾賊の幹部・張梁、張宝と対峙する中郎将。火計を提案し、黄巾賊を破る。
- 曹操
本作序盤の悪役であり、劉備のライバル。いわずと知れた魏の創始者。ライバルであることから劉備の出自に比べてあまり良い書き方をされないが、華麗なる一族。張梁・張宝を破り、後を追った。
- 張角
黄巾賊のリーダー。「大賢良師」「天公将軍」などと名乗る。元は役人試験の落第者で仙人に出会ったことから道教系の宗教・太平道の教祖となる。盧植・董卓を相手に妖術で翻弄する。
この時代には科挙制度はなく、登用に試験はなかったため当然落第者は出ない。こういった経歴が書かれたのは、張角が知識人であることと政府内にも一定のパイプがあったことが要因。黄巾の乱は単なる宗教にもとづいた反乱ではなく、党錮の禁後に在野に散った知識人や役人なども味方したことから、ここまで大規模なものとなった。張角には宗教家としても人物としても大変なカリスマがあった。演義の通り、董卓を破ったあとすぐに病死している。
- 張梁
張角の弟。「地公将軍」を名乗る。朱儁・皇甫嵩らに敗れ曹操に追い立てられる。
- 張宝
張角・張梁の弟。「人公将軍」を名乗る。朱儁・皇甫嵩らに敗れ曹操に追い立てられる。
- 董卓
盧植に代わって張角と対峙する中郎将。張角に敗れて逃げるところを劉備らに救われる。無冠の劉備に対して態度を変えたことから張飛の怒りを買い殺されそうになるが…。
劉備の大移動
第一話から劉備らの華々しいデビューが描かれるが、その一方で異常ともいえるほどの距離を移動しています。あたかもこれからの劉備らの行く末を暗示しているようなので、確認してみましょう。
まず、劉備らは涿郡涿県(現在の河北省涿州市付近)で旗揚げします。その後劉焉に目通りしていることから、幽州の都(北京の西)移動。その後涿郡で黄巾賊を破ります。続いて青州(山東省)を救援に向かいます。その後、広宗(河北省邢台市)の盧植のもとへ。そこから潁川郡(河南省の許昌)へ朱儁・皇甫嵩の救援へ。そして再び広宗に向かい途中で涿県へと進路変更。途中で董卓を救います。
この移動距離なんと直線距離で2000キロ。鹿児島中央駅から九州新幹線、山陽新幹線、東海道新幹線を経て東北新幹線の新青森駅まで行けてしまう距離です。
単純に直線距離なので、もっと長い道のりだったことでしょう。
もちろんこれは演義だけの設定で、劉備のデビューを華々しくしようとしたせいです。劉備は張梁・張宝はおろか、張角とも対峙することなく幽州へ引き上げています。
第一話まとめ
第一話では後漢末の状況説明と黄巾の乱、そして劉備たちの華々しいデビュー。そして顔を合わせることはありませんが、ライバルとなる曹操の登場。最後には悪役・董卓を登場させて終わります。
さて、第二話で董卓はどうなるのか。
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